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立ち読みコーナー『監督官がやってくる!』

『監督官がやってくる!』

<第2章>労働基準監督署の調査から措置の流れ

「サービス残業対策」と「長時間労働(過重労働)対策」が2大テーマだ

●原因の20%が80%の結果をつくる

俗に「20対80の法則」などと呼ばれるパレートの法則というものがありますが、これはまさに労働基準監督署対策にも当てはまります。20%の要因が80%の結果をつくります。逆にいえば、この20%の要因をしっかり克服しておけば80%の問題を解決できるということを意味します。

労働基準監督署対策でその20%の要因は、「サービス残業」と「長時間労働(過重労働)」です。この問題は突き詰めると「労働時間管理」の問題に行き着きます。

労働行政のキーワードは「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)です。要するに労働時間の短縮です。労働行政は少子高齢化・労働力人口の減少対策としてワーク・ライフ・バランスの大号令をかけて真剣に取り組んでいます。

その政府のねらいはおおむね以下のようなことだと思います。

    1. 子育て世代の男性(特に30代)の長時間労働を抑制すること
    2. 女性が子どもを産み育てながら働くことができるようにすること
    3. 長時間労働から労働者の心身の健康を守ること

私も方向性は賛成ですし、そのような社会を実現すべきだと思います。しかし、雇用と賃金を死に物狂いで維持している、現場の中小企業経営においてどうやってそれを実現したらいいのでしょうか。

昨今のデフレ環境下においては供給過剰なためモノやサービスが売れません。また、大手企業は中国等の賃金の安い国、マーケットが拡大している国に仕事をドンドン移しています。企業間のコスト競争が激化し、売上粗利も激減しています。

このような流れから、国内のみを市場とする中小企業は、業種を問わず365日24時間対応の“コンビニスタイル”でいかざるを得ない会社が増えています。「短納期・スピード」「高品質・高付加価値」「多品種」「小ロット」「手厚いサービス・アフターフォロー」という要素を商売に取り入れていかなければ、グローバルな競争下、国内市場で存続できなくなっています。これは実態としてはますます手間ひまのかかる労働集約的な要素が強まっていることを意味し、ややもすれば長時間労働となってしまいます。また、受注や来客がないときは逆に手を持て余すという困ったことも起こっています。

労働時間についてより一層の短縮をせまられる一方で、グローバルな競争力を高め、雇用と賃金を維持しなければならないのです。つまり、労働基準監督署調査対策上、“適正な労働時間管理”は最も重要だが最も難しい課題であるということです。

●「タイムカードを廃止すればよい」は正解か

それに対して、「タイムカードを廃止すれば労働時間がわからない」→「労働時間がわからなければ残業時間もわからない」→「だから残業代を適正に払う必要がない」と危ない誤解をしている人がいるかもしれません。

もちろん、このやり方が明確な罰則をもって取り締まられているわけではありません。しかし、現在の社会経済情勢の流れ、社会通念、労働行政の展開、労働者の意識をふまえれば、この発想は大変危険ですし、早晩行き詰まります。

日本国内で立派な実績を残されているベテラン経営者ほど意識改革は難しいことがあります。「曖昧な労働時間管理」「長時間労働は美徳だ」「能力不足なら労働時間でカバー」という時代は終わりました。これからは労働基準法改正、サービス残業代の請求等の労働者の訴え、労働基準監督署調査が厳しく中小企業を糾弾します。時短に向けての社会的要請が強烈に高まりますので、過度な長時間労働を前提としたビジネスモデルは今後維持できません。

労働時間と残業代、賃金問題に“正面から向き合う”ため次章以降で、この二つのテーマについて対策を見ていきましょう。